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防げ「ブラック就職」、学生に労働法の出前講座も

(日経新聞 2015年10月5日)
 
 大学3、4年生やその父母の間では、若者を安い労働力としか見ない「ブラック企業」を見分けたいとの思いがとても強い。これに応えるため、民間団体や厚生労働省は最近、学生に労働法のルールを教える出前講座を各大学で盛んに開く。9月には、労働法知識の若者への普及を国の努力義務とした青少年雇用促進法が成立し、同種の講座はますます増えそうだ。
 
 「まず質問。静岡県内で労働法違反があった事業所は60%以上だった。これは正しいと思う?」
 9月24日、静岡県磐田市の静岡産業大学で一般社団法人ワークルール(静岡市)が労働法講座を開いた。講師の社会保険労務士、鯉渕ヒロミさんが聞くと3、4年生約30人は一瞬戸惑い、数人が手を挙げた。答えは「正しい。静岡労働局が調べた違反率は61.9%。他県ではコンビニ店の違反率が9割以上だったこともある」。意外な現実に空気が引き締まる。
 具体的な説明が続く。いったん出た内定を会社が取り消すには労働契約法の規定で「社会通念上で相当な理由」が必要なこと。学生の内定辞退は労働基準法や民法により可能なこと。時間外労働には割増賃金が必要だが、例外があることも話題に挙げた。
 ゼミの学生を受講させた同大学専任講師の高城佳那さんは「学生から『アルバイトで連続12時間働いた』といった声を聞く。就職先がきっちりしていれば良いが、そうでない場合に備え知識を得させたい」と話す。就職活動中の4年生の袴田三紀子さんは「会社では働き方の基礎の話をしてくれないと思うので、講座は役立つ」という。
 ワークルールは前身時代を含め主に静岡県内で出前講座をして来たが、2014年度からは人材派遣会社、アウトソーシングの社会貢献活動として全国で無料講座を開く。事務局長の由比藤準治さんは「学生はブラック企業を気にしている。偏った情報に躍らされないためには知識が必要」と話した。14年度に73回開き、15年度は9月までに55回の依頼を受けている。
 一方、厚生労働省は12年9月から全国の労働局が大学に出前講義を開くよう「営業をかけている」(地方課課長補佐の湯川渉さん)。講師は労働局長ら幹部が中心。開催大学数は13年度に371校だったが、文部科学省から「ブラックバイト対策として協力したい」との話が出た14年度は508校に急増した。
 3、4年生向けの講義が多いが、9月まで東京労働局長だった西岸正人さんは6月、東京純心大学(東京・八王子)で1年生に労働法の講義をした。「どの大学でも学生は労働法をほとんど知らない」と話す。
 厚労省幹部や西岸前局長によると、同省は08年のリーマン・ショックまで若者の働かせ方をそれほど重視していなかった。1990年代後半に就職氷河期はあったが、大企業では新卒の一括採用・長期育成システムが機能して問題は少なく、女子学生や高齢者への差別是正などを除けば、中小企業に最低労働基準を守らせるのに主眼を置いた。
 リーマン・ショック後は状況が一変。企業規模と無関係に、社員に過重労働を強いるブラック企業が問題化し、若年退職は若者の甘えという通念は変わった。ただ従来の学校教育では労働のルールを知る機会はほとんどない。急ぎ若者の知識を高めるため厚労省は出前講座を始めた。15年度にはテキストとして労働法に関するQ&Aをまんが仕立てにし、巻末にトラブル時の相談先リストを載せた「これってあり?」を31万部刷った。
 一方で労働契約には企業だけでなく、労働者が守るべき義務がある。この側面を伝えるため、ワークルールの鯉渕さんは講座の後半約3分の1を、学生に労働者の義務や職場のコミュニケーションの重要さを説明することに費やしている。
 内容は労働者には職務に専念する義務や秘密を守る義務などがあること、企業は賃金とは別に、社員の社会保険料を半分負担している事実などの説明だ。労働者保護を目指す厚労省の講座では、働く人の義務を正面から取り上げにくい。ブラック企業対策で権利を教えることは当然だが、義務の側面も若者に知らせるバランスは大切だろう。
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